かくぼうのしっぽ

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歌詞分析 ~「台風の目」編~

「この授業しんど」

遠くで光って大きな雨粒 落っこちて街は真っ白
大きな声で叫んでも 誰にも聞こえない

ああ!!ああ!!ああ!!あああああ!!
ああ!少し不安で少しワクワクしてる

ここは 台風の目 束の間の夢
逆さまの空歩く長靴 世界中の時計
少しさぼって 今すぐ君に会いに行くから
きっと大丈夫さ

ああ!!ああ!!ああ!!あああああ!!
ああ!少し不安で少しワクワクしてる

ここは 台風の目 束の間の夢
逆さまの空歩く長靴 世界中の時計
少しさぼって 今すぐ君に会いに行くから
きっと大丈夫さ きっと大丈夫さ

―古墳シスターズ「台風の目」

古墳シスターズ歌詞分析、大麦編。本記事では、アルバム『カノン』の2曲目に収録されている松本さん作詞曲、「台風の目」を取り上げます。
歌詞分析と仰々しく銘打っておりますが、この記事で言いたいことはたった一つ。
「台風の目」ってむちゃくちゃかっこええ曲よな!
です。

 

2日目の記事のメンバー紹介ですこし触れたように、松本さんの書く詞は、松山さんの書く叙述メインの詞に比べると、観念的な世界観で抽象的な描写が多い。このことは松山さんも次のようにコメントしている。

どちらかというと抽象的に世界を描写するのが松本くんのスタイルなのかもと僕は最近思うようになりました
(両A面シングル『古墳シスターズの夏休み2 / シロガネ』リリースの際の松山さんによるコメントより抜粋)

もうすこし詳しく説明すると、歌詞の主人公がいつ・どこで・なにをしているのか、が曖昧になっているということだ。このへんはオルタナティブロック(ジャパニーズロックかも)の要素が多分混じっていると言えるのではと思っている。情景を描いてなんらかの物語を示していくというより、ある思想や哲学を提示するみたいな感じ。

ただ、松本さんの詞が抽象一辺倒かというとそういうわけでもない。曖昧な景色のなかではあるけれど、すくなくとも舞台は地球で語り手は人間だよな、と確信できるくらいに具体的で現実的な描写がしばしば顔を出すことがある。
たとえば「冬物」の〈冬物のポケットの中にあった古いレシート〉、「世界中で迷子になって」の〈あの日の夕暮れの空〉。「どうかしてる!」でも、冒頭の語り手は息を止めながら〈トンネル〉を通っているわけだから。

「台風の目」もそう。台風のなか、〈遠くで光って大きな雨粒〉に包まれた街を眺める語り手がたしかにそこに見えている。〈逆さまの空歩く長靴〉も人間の存在を示す歌詞だ。

〈逆さまの空歩く長靴〉。
初聴時からしばらくのあいだの解釈では、歌詞とともに味わうサウンドの激しさもあいまって、主人公が“空がひっくり返ったような大雨のなか”を行く様子を表しているのだとだけ思っていた。一応、そのように読み取っても破綻はないはず。
けれども何十回か聴いたあるとき、ふと別の光景が想起された。
道をひたひたに埋める大きな水たまりに、雲の切れた空の様子が鏡のように映っていて、その〈逆さまの空〉の上を長靴を履いて歩いていく主人公の様子だ。〈台風の目〉に入ってひととき雨も風もやんだ外の世界で、水浸しの道路を主人公が一歩一歩たしかめながら歩いていく姿を表しているのでは、と。
それを〈逆さまの空歩く長靴〉って表現するの、めちゃくちゃおしゃれでかっこよくないか……!?
そうと気が付いてから「台風の目」がなおさら好きになった。曲も詞もかっこいいよな。しみじみ。

 

せっかくだから、松山さんの詞と松本さんの詞で違いがあるよなといつも思うところを挙げてみたい。この「台風の目」にも関連する。

古墳シスターズの曲には別れの歌が多い。友人も似たようなことを言っていた。いままさに別れる寸前や別れてしばらく経ったあとの歌。そういう別れモチーフを、松山さんも松本さんもどちらもよく扱っている。が、その扱いかたにはかなり差異がある。

松山さんの場合、別れに対してはけっこう吹っ切れた状態にあって、別れた相手へ「そのままどうぞお元気で」と割り切って伝えるような詞が多い。わかりやすいものを1つ挙げるなら「Happy Wedding」だろうか。あまりにはっきり書かれてあってもはや解説するまでもないので、ぜひ「Happy Wedding 古墳シスターズ」で検索して歌詞をお読みいただければと思います。お持ちのかたはお手元の『ハブ・ア・グッドバイ』の歌詞カードを見て読み上げてください。

さて、一方の松本さんの場合、 いちど別れてしまってもそれでも心配に思って、別れた相手に会いに行こうとする詞が多い……と思う。別れたあとでも再会を純朴に願っている感じ。
この「台風の目」で言うと、主人公は〈世界中の時計/少しさぼって〉と願うほど〈今すぐ君に会いに行く〉ことを考えている。
でも、台風なんだぜ。台風の目に入っているとしても、まだ台風は明けていないんだぜ。だけどその一瞬の隙をついてでも〈君〉のところを目指したいわけよ、この主人公は。一途で切実。

このあたり、「台風の目」ってむちゃむちゃ松本節やな〜と思うのです。その松本節の感じがむちゃむちゃ好きなんよな〜。

 

はい。
以上、「台風の目」の歌詞のどのへんがどう好きかっていう分析でした。歌詞分析ではなくわし(自己)分析ってな。やかましい!